辻井伸行さん
バン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝したピアニストの辻井伸行さんの演奏を、私はちゃんと聴いたことはないので何も書けない。しかし、いろいろな人が語っている。読売新聞にいい文章が2本出ていた(どちらも9日付け朝刊・大阪本社)。
最初は、1面のコラム「編集手帳」の一部である。
普通は譜面を見て覚える曲を辻井さんは録音テープを聴いて学ぶという。見えない鍵盤をたたいては「天から降る」と評された独特の美しい音色に織っていく。天才や奇跡という安易の形容は寄せ付けず、努力や鍛錬というありきたりの言葉では足りず、
簡単感嘆の吐息をもってしか語ることのできない人生もある。
うーん。うまい! さすがにプロの文章だ。しかしもっとすごいのがあった。文化欄に、吉原真里氏(ハワイ大学教授・アメリカ文化研究)の批評が出ている。この人はコンクールの場に実際にいたそうだ。同様に一部を紹介する。
私は、今まで辻井さんの演奏に触れたことはなく、実際に聴くまでは多少懐疑の念を持っていた。盲目でありながらこれだけピアノが弾けるのはもちろん驚異的だが果たして本当にほかのピアニストに匹敵するものなのか。
(中略)
しかし、予選の演奏を聴き、そんな思いはたちまち雲散霧消した。ショパンの練習曲ハ長調作品10が始まってわずか数小節で、ぽろぽろ涙が出てきて、1、2分もたつと辻井さんが盲目であることはすっかり忘れてしまった。実にまっすぐな解釈でありながら音楽的に洗練され、聴衆の心に訴える演奏なのだ。演奏の後、聴衆は総立ちでブラボーを連呼し、拍手は5分以上も続いた。
なんという文章か。私まで、辻井さんの演奏を聴いている気持ちになった。そして気がついたら、私の目からもぽろぽろ涙が。私には一生書けない文章だな。
追加
研究仲間のまるしんさんのブログで辻井さんの師匠である川上昌裕さんのブログが紹介されている。どちらもおすすめ。
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コメント
現在大学での師である横山幸雄さんが「彼は、指先に目があるというべきで、鍵盤をさぐる動作をせずにスパッと音をつかむんです。」とテレビで言っていました。
私も実は泣いた者の一人ですが、その姿からは「神に選ばれた子」の純粋なオーラを感じました。
「奇跡のピアノ」と称してどこが安易か!と思います。
ほんとうに生で聴いてみたいですが、多分しばらくは日本中どこでもSOLD OUTなのでしょうねえ。
投稿: ピロリ | 2009年6月11日 (木) 00時48分
私も聴きに行きたいのですが。
ピロリさんよりもチャンスがあるかも
投稿: 吉田孝 | 2009年6月11日 (木) 12時55分