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「共喰い」

田中慎弥「共喰い」(『文芸春秋』3月号)を読む。芥川賞作品である。受賞時の記者会見時の発言などで、作者に関する話題が先行してしまってなかなかコメントがしづらいが・・・

選考委員の何人かが述べているように文章はなかなかすごい。とくに主人公の暮らす地域の風景、主人公のまわりにいる人々を描写している場面を描いているところでは、ぐんぐん引き込まれていく。ただ、主人公の内面の描写はいただけない。

主人公の遠馬は17歳の高校生。近くに住む上級生の千草とのセックスにのめり込んでいる。父は相手に暴力を加えながらセックスをするという性癖があり、それを目撃した主人公は同じことを千草にしてしまう。その前後の主人公の葛藤を描いた小説、ということになるのだろう。

この17歳の主人公の頭の中は、セックスばかりである。わたしもかつて「17歳の少年」を経験したことがあるのでこのような頭の状態はわからなくもない。しかし実際の17歳の少年はそれだけではない。自分の将来のこと、家族のこと、友人のこと、学校のこと、社会のことも1%くらいは考える。その中で苦しみもがく。頭の中は99%セックスばかりであっても、葛藤がセックスから生まれるわけではない。

この主人公も一応は葛藤しているようだ。だから、その葛藤もセックスに由来している。しかし、そんな葛藤にはほとんど必然性がない。それは作者が描いた虚構にすぎない。.この主人公が特異な性格であり、仮に実際に存在する自分だとしても、作者はこの主人公の内面、つまり葛藤の本体は何も描ききれていない。

結局、ベトベトした精液の匂いばかり残る薄気味悪い小説、というのが私の感想である。

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