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2016年1月 6日 (水)

最近芥川龍之介に少し凝っている。36年の短い生涯なのだが、残したものは計り知れない。その芥川は、音楽のことについてもたびたび書いているのだが、中には五線譜を使ったものもある。ちょっと長くなるが引用する。

しかし何度も繰り返すように文芸は言語あるいは文字を表現の手段にする芸術であります。この制限を超えられぬ限り、やはり文芸の内容にならぬ情緒を認めず にはいられません。例えばカンディンスキイの「即興」と題する画は只何の形ともつかぬ種類の色の集合であります。・・中略・・ああ言う画の与える情緒はい かなるダダイズムの詩人にせよ、到底言語を手段として表現することは出来ますまい。・・・中略・・・・いや、何もカンディンスキイなどを引き合いに出すに はあたりません。たとえば「のんこう」の茶碗だとか、
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だとかの与える情緒は文芸の埒外にある筈であります。我々は何か感心した時に「何とも言 われぬ」と言いたくなりましょう。あれは我々ばかりではない。実は文芸そのものの歎声を発しているのであります。(「文芸一般論」『芥川龍之介全集8』ちく ま文庫)

今読めば、至極常識的な文芸論であり芸術論である。ただ、この文中に挿入されている譜の芥川が「何とも言われぬ」と言ったこの旋律が、私には思い当たらなかった。それでSNSで訪ねたところ、S大のK氏が教えてくれた。ワーグナー作曲《ワルキューレ》の第3幕、集結部分の「ローゲ動機」と言うらしい。実際に楽曲を聞いて確認もできた。

ワーグナーの作品のサワリを聴くことはよくあるが、全曲を聴くことはなかなかない。このような部分をさらりと楽譜付で紹介する芥川は、この今日を隅々まで聴いていたのだと推測される。そして相当な音楽好きだったのであろう。少しうれしくなる。

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