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勇者たちへの伝言

増山実『勇者たちへの伝言・いつの日か来た道』(ハルキ文庫、2016、680円+税)

一気読みした。

「勇者」とは現在のオリックス・バッファローズの全身である阪急ブレーブス球団(1988年度で消滅)。「いつの日か来た道」は阪急ブレーブスの本拠地・西宮球場のあった「西宮北口」とゴロが合って、居眠り状態で聞くと聞き間違えることから来ている。

この小説は阪急ブレーブスにまつわる人々、その西宮北口周辺で生きていた人々のその後の人生を描いた物語。西宮球場と阪急ブレーブスがこの物語の登場人物をつなぐキーになっている。しかし、この物語の大きなテーマは北朝鮮帰還事業によって集団帰国した在日朝鮮人の人々に待っていた過酷な人生。

物語の半分は、主人公の父親の初恋の人であった在日朝鮮人の李安子に手紙文の形で語らせる。「この世の楽園」という北朝鮮側の宣伝によって1959年から1960年代に続けられた北朝鮮帰還事業。しかしその実態はこの世の楽園とは正反対の地獄だった。しかし、それでも必死で生き延びていく李安子の人生。その語り口には体験した人でなければわからない真実味を帯びている。

作者は、おそらくこの小説を書くために時間をかけた取材をしているはずだ。李安子さんはおそらく実在の人物だろうし実際に会って話もしたのであろう。また、阪急ブレーブスの選手であった高井保弘氏やバルボン氏へは取材もしている。北朝鮮に帰還して消息不明になった歌手の小畑実や永山一夫にもふれる。しかし、一方でタイムマシンのように時間が溯って死んだ父親と会話をするなど奇想天外なシーンも登場する。このような、フィクションとノン・フィクションの程よく折り混ざった構成が、物語を面白くしている。

それにしても、あの帰国事業は何だったのだろう。そして帰国事業は、北朝鮮が騙したというだけでは片付けられない。自民党・社会党・共産党をはじめとす政党や多くの団体が積極的に関わっている。日本人の責任も極めて大きい。

なお、物語に小畑実という歌手の「星影の小径」という歌が出てくる。You-Tubeで聴いたらかすかに聴き覚えのある歌だった。永山一夫は残念がら覚えていない。

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