開平

ちょっとしたきっかけで、筆算による開平法というのが気になった。例えば、「ルート1376」を筆算で計算する方法である。今なら、エクセルなどを使えば、=1376^(1/2) で一発で答えが出る。それを筆算で解くのである。紙を出して、「ああっだった、こうだった」と思い出しながら解いてみたら何とか解くことができた。「副演算」というのが開平の鍵である。
   (a+b)^2 = a^2 + b*(2a+b)
この b*(2a+1)  が副演算の部分である。
と・・・夢中になっていたら母のことを思い出した。

9年前に亡くなった母(大正14年生)は、女学校卒業後、水路部(現在の海上保安庁海洋情報部)で数年間働いていた。そして、その仕事と言えば、毎日毎日計算ばかりしていたそうだ。海面の高さだとか、気象情報だとかの数値を統計的処理するための計算の一部をしていたのだろう。

例えば、100個くらいの素データがあって、その平均、標準偏差を出すにはどうしたらよいだろうか。今ならパソコンの表計算ソフトを使えば、その何万倍のデータがあっても一発で処理できる。しかし、コンピュータもない時代には100のデータを足し算したり、それぞれのデータを二乗して足し算してそれからまた開平してというような作業を繰り返さなければならない。私なら電卓を使っても1日くらいかかりそうだ。母は算盤と計算尺を使っていたというが、それでも大変なことだったろう。

母の仕事は、今でいえば表計算ソフトでそれぞれの行列の平均や標準偏差などを計算するような仕事ではなかったか(実際には現在は入力もすべて自動の大型コンピュータなのだろうが)。手計算なら、行列の数が大きければそれだけ時間がかかる。コンピュータなら一瞬のうちにできる仕事を何日もかけてやっていたのだろう。

母の自慢話によると、そこに就職するのは大変な競争率で、よほど優秀でなければ勤められなかったらしい。それだけ重要な仕事だったのだろう。社会全体から見れば、優秀な労働力の一定部分がこのような作業に振り向けられていたのである。

私は、実は表計算については MS-DOSの時代に Lotus-123 ではじめたのだが、まずその便利さに驚いた。研究所勤めの頃は、集計のために、エクセルや三四郎(一太郎との相性がよい)の画面を見ながら格闘していた。最近では、スプレッドシートを見るのも嫌である。

便利さは、ゆとりや幸せには結びつかない----ちょっと飛躍のある結論。

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